退職金の税金の基本:退職所得の課税の仕組み
退職金は「退職所得」として課税されます。退職所得は他の所得(給与所得・事業所得など)と「分離課税」され、独自の計算方法が適用されます。大きな特徴は「退職所得控除」という大型の控除が適用されることです。
退職金の課税計算は「①退職所得の計算→②退職所得控除の適用→③課税退職所得金額の計算→④税額の計算」という4ステップで行われます。退職所得控除が大きいほど手取り額が増えます。
退職所得控除の計算式(勤続年数別)
退職所得控除額は勤続年数によって計算方法が異なります。勤続年数20年以下の場合は「40万円×勤続年数(最低80万円)」、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」が控除額です。
例えば勤続10年なら退職所得控除は400万円(40万円×10年)。勤続30年なら800万円+70万円×10年=1,500万円の控除が適用されます。この控除額以下の退職金であれば、所得税・住民税はゼロになります。
- ●【勤続5年】退職所得控除:200万円(40万円×5年)
- ●【勤続10年】退職所得控除:400万円(40万円×10年)
- ●【勤続15年】退職所得控除:600万円(40万円×15年)
- ●【勤続20年】退職所得控除:800万円(40万円×20年)
- ●【勤続25年】退職所得控除:1,150万円(800万円+70万円×5年)
- ●【勤続30年】退職所得控除:1,500万円(800万円+70万円×10年)
課税退職所得金額と実際の税額計算方法
退職金から退職所得控除を引いた残額を「2分の1」した金額が「課税退職所得金額」です(短期退職特例を除く)。計算式は「課税退職所得金額=(退職金額-退職所得控除額)÷2」となります。
この課税退職所得金額に通常の累進課税率(5〜45%)を適用して所得税を計算します。例えば課税退職所得金額が200万円の場合、所得税率は10%で所得税額は20万円(控除引き前)。実際には復興特別所得税(2.1%)・住民税(10%)も別途かかります。
2022年以降の短期退職の税制変更:5年以内退職への注意
2022年1月から、勤続年数が5年以下の「短期退職者」への退職所得計算方法が変更されました。退職金額から退職所得控除を引いた残額(300万円超の部分)については「2分の1」の優遇計算が廃止されました。
例えば勤続3年で退職所得控除120万円(40万円×3年)、退職金400万円の場合、旧制度では課税退職所得=(400万−120万)÷2=140万円でしたが、新制度では課税退職所得=(400万−120万の300万以下部分)÷2 + 400万−120万−300万 = 150万+(280万−300万の超過部分0円)= という複雑な計算になります。具体的には税理士や会社の人事担当者に確認することをお勧めします。
退職金の手取り額シミュレーション:勤続年数別の具体例
実際に退職金を受け取った場合の手取り額を、勤続年数・退職金額別にシミュレーションします。税額の概算を把握することで、転職のタイミング判断に活用してください。
勤続10年・退職金500万円の場合
勤続10年・退職金500万円の場合の計算例です。退職所得控除=40万円×10年=400万円。課税退職所得=(500万−400万)÷2=50万円。所得税率5%(95万円以下)→所得税額=2.5万円。復興特別所得税0.05万円。住民税(10%)=5万円。合計税額≒7.6万円。手取り約492.4万円。
この場合、退職金500万円に対して税額は約7.6万円(税率約1.5%)と非常に軽い課税です。退職所得控除の効果が大きく、控除後の課税額が小さいため税負担は最小限に抑えられます。
勤続20年・退職金1,500万円の場合
勤続20年・退職金1,500万円の計算例です。退職所得控除=40万円×20年=800万円。課税退職所得=(1,500万−800万)÷2=350万円。所得税(350万円→20%-42.75万円控除)=27.25万円。復興特別所得税0.57万円。住民税35万円。合計税額≒62.8万円。手取り約1,437.2万円。
1,500万円の退職金に対して税額は約63万円(税率4.2%)です。給与所得として受け取れば同額で約500万円以上の税額になることを考えると、退職所得の優遇税制の大きさが分かります。
勤続5年以下の短期退職のシミュレーション
2022年以降の制度変更により、勤続5年以下の短期退職では税負担が増加しています。例えば勤続3年・退職金500万円の場合:退職所得控除120万円(40万円×3年)。500万-120万=380万円の残額。300万円以下部分150万円は1/2優遇あり→75万円。300万円超部分30万円は優遇なし→30万円。課税退職所得=75万円+30万円=105万円。所得税・住民税合計≒20.6万円。
同じ500万円の退職金でも、勤続年数が10年の場合(税約7.6万円)と比べて短期退職では税額が約3倍になります。転職を考える際、勤続年数と退職金・税額の関係を試算した上でタイミングを判断することが重要です。
どのエージェントを選ぶべきか迷っていますか?
年代・職種・年収・希望条件を選ぶだけで、あなたに最適なエージェントTop3をご提案します。
退職金の確定申告:必要な場合・不要な場合
退職金を受け取った場合、確定申告が必要かどうかは状況によって異なります。一般的には「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していれば、退職金の税額は源泉徴収で完結し確定申告は不要です。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合
退職時に会社の人事部から「退職所得の受給に関する申告書」を提出するよう案内があります。この申告書を提出することで、会社が退職所得控除を適用した正しい税額を計算し源泉徴収してくれます。この場合、原則として確定申告は不要です。
ただし医療費控除・住宅ローン控除など他の控除を申請する場合や、退職年に複数の退職金を受け取った場合(同一年内に2社から退職金を受け取った場合など)は確定申告が必要になることがあります。
申告書を提出しなかった場合(20.42%の源泉徴収)
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合は、退職金全額に対して一律20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)が源泉徴収されます。この場合は確定申告を行うことで、退職所得控除を適用した正しい税額を計算し直し、過払い分の還付を受けることができます。
退職金の受け取り忘れた申告書があった場合は、必ず翌年3月15日までに確定申告を行い還付申告をしてください。特に数百万円・数千万円の退職金の場合、一律20.42%と本来の税額の差は大きく、確定申告で大幅な還付を受けられるケースがあります。
退職後に転職した年の確定申告の注意点
転職した年(同一年内に退職と入社がある場合)は、退職金の確定申告とは別に「給与所得の年末調整」の問題があります。転職先での年末調整で前職の給与収入・社会保険料等の合算が必要です。前職の「源泉徴収票」(退職時に発行される)を転職先の年末調整に提出してください。
もし年末調整で前職の収入が合算されない場合(転職先での手続き漏れ等)は、翌年に自分で確定申告を行う必要があります。退職金の税金と給与所得の年末調整は別々の手続きであることを理解した上で、漏れのないように対応してください。
退職金を最大化する転職タイミング戦略
退職金は勤続年数・退職理由(自己都合か会社都合か)・退職金規程によって額が大きく変わります。転職のタイミングを戦略的に選ぶことで、退職金の手取り額を最大化することが可能です。
勤続年数と退職金の関係:年数ごとの変化
多くの企業の退職金規程では、勤続年数に応じて退職金額が急増するポイントがあります。一般的なパターンとして「勤続3年未満では退職金なし」「3年以上から発生し始める」「10年・15年・20年で大幅増加する」という形を取ることが多いです。
転職を検討中の方は、現在の会社の退職金規程(就業規則の附則や退職金規程として別途定められていることが多い)を必ず確認してください。転職のタイミングを半年〜1年ズラすだけで退職金が数十〜数百万円変わるケースがあります。
自己都合退職と会社都合退職での退職金の差
退職金は「自己都合退職」より「会社都合退職(リストラ・早期退職等)」の方が多く支払われる規程になっている会社が多いです。一般的に会社都合退職金は自己都合の1.2〜1.5倍になるケースがあります。
早期退職制度(希望退職制度)がある場合、通常の退職金に「割増退職金(1,000万〜数千万円)」が加算されることがあります。会社が早期退職者を募集している時期に転職を考えている場合、割増退職金の対象になるかどうかを確認することが重要です。
退職金と転職後の年収の総合的な判断基準
退職金の額だけで転職タイミングを判断するのではなく、「退職金の手取り額」と「転職後の年収増加×在職年数」の総合的な比較が必要です。例えば「今転職すれば退職金は200万円少ないが、年収が100万円上がる」という場合、2年で退職金のロスを回収できます。
また退職所得控除は「前の会社から退職金を受け取った年から5年(短期退職特例適用者は3年)を空けないと、二重の退職金受取で控除が制限される」という規則があります。転職先でも将来的に退職金をもらう予定がある場合は、この5年ルールも考慮に入れた転職計画が必要です。
転職時の確定拠出年金(DC)と退職金の関係
近年、退職金制度から確定拠出年金(企業型DC)への移行が進んでいます。DCがある会社に転職する場合・からの転職の場合には、退職金とは別の手続きが必要です。
企業型DCの転職時の手続き
企業型確定拠出年金(企業型DC)がある会社を退職する場合、DC口座の資産をどうするかを選択する必要があります。選択肢は①転職先の企業型DCへの移換、②iDeCo(個人型DC)への移換、③国民年金基金連合会への自動移換(6ヶ月間手続きをしなかった場合)の3つです。
自動移換になると「資産管理手数料が差し引かれる」「運用が中断される」「将来の受取時の税制優遇が制限される可能性がある」などのデメリットがあります。退職から6ヶ月以内に手続きを行うことを強くお勧めします。
退職金とDCを組み合わせた受取戦略
退職金(一時金)とDC(年金または一時金受取)を同一年に受け取ることが可能な場合、退職所得控除の適用を最大化するための「受取タイミングの調整」が有効です。
両方を一時金として受け取る場合、DC受取時点が「退職日から20年以上経過」しているか否かで控除の計算方法が変わります。このような複雑な税務戦略については、転職前に会社の人事担当者または税理士に相談することを強くお勧めします。
まとめ:転職前に確認すべき退職金チェックリスト
退職金は転職の重要な経済的要素です。「いくらもらえるか」だけでなく「いくら手取りで受け取れるか」「最大化するためにはいつ・どう辞めるか」を戦略的に考えることで、転職による経済的損失を最小化できます。
退職前の確認チェックリスト10項目
転職を決断する前に、以下のチェックリストを確認してください。特に退職金規程の内容は人事担当者に確認するか、就業規則の退職金規程を入手して確認しましょう。
退職金を受け取った後の手続き(確定申告の要否・DC移換手続き)も忘れずに行ってください。退職後に時間が経ってから気づいた場合でも、5年以内であれば確定申告での還付申告が可能です。
- ●①現在の会社の退職金規程を確認(勤続年数・退職理由による金額)
- ●②自己都合退職と会社都合退職での退職金額の差を把握
- ●③退職所得控除額の計算(勤続年数×40万円 or 800万+70万×(年数-20年))
- ●④退職金の税額(所得税・住民税)の概算計算
- ●⑤「退職所得の受給に関する申告書」の提出確認
- ●⑥企業型DCがある場合の移換先・移換手続きの確認
- ●⑦早期退職制度・希望退職募集の情報収集
- ●⑧5年以内の再転職での二重退職金受取時の税制確認
- ●⑨転職後の年収増加と退職金減少の損益分岐点計算
- ●⑩退職金受取後の確定申告要否の確認