就業規則とは何か・確認する方法
就業規則は、会社が定める労働条件や職場のルールを文書化したものです。10人以上を雇用する会社では、就業規則の作成・届出が義務付けられています(労働基準法89条)。また、従業員はいつでも就業規則を閲覧する権利があります。
就業規則の入手方法
就業規則を確認する方法は複数あります。
- ●①社内イントラネット・会社の共有フォルダに掲示されている場合が多い
- ●②人事部門・総務部門に「閲覧したい」と伝えれば必ず見せてもらえる(閲覧を拒否することは違法)
- ●③会社が就業規則の冊子を配布している場合は手元にある
- ●注意:スマートフォンで写真撮影・コピーが許可されているか事前に確認する(多くの場合は問題ないが、機密扱いの会社もある)
チェックポイント①:副業・兼業に関する規定
副業・兼業については、2024年以降は原則自由化の方向で政府が後押ししていますが、就業規則で禁止している会社はまだ多く存在します。転職先でも副業をしたい場合・現職で副業をしている場合は必ず確認しましょう。
副業禁止規定の確認方法と実際のリスク
多くの就業規則には「会社の承認なく他の会社で就業してはならない」「競合する事業に従事してはならない」といった条項があります。副業収入が確定申告で会社に通知されるリスク(住民税の通知経由でバレるケース)も理解しておく必要があります。
- ●確認すべき条項:「兼業・副業禁止」「許可制(申請が必要)」「自由」のどれか
- ●副業がバレる主な経路:①住民税の通知(確定申告時に副業分の住民税が会社に通知される)②社内でのSNS・口コミ
- ●住民税のバレ防止策:確定申告の際に「普通徴収」を選択する(副業分の住民税を自分で納付する)
- ●転職先で副業を続けたい場合:転職先の就業規則・雇用契約書で副業に関する規定を確認する
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チェックポイント②:競業避止義務(競業禁止条項)
競業避止義務とは、「退職後に競合他社で働いたり、競合する事業を始めたりしない」という義務です。この条項が就業規則や雇用契約書に含まれている場合、転職先の選択肢が制限される可能性があります。
競業避止義務の法的有効性と無効になる条件
競業避止義務に関する条項は、内容によって「有効」と「無効」に分かれます。以下の判断基準を参考にしてください。
- ●【有効になりやすい条件】①対象者が役員・特定の技術保有者など高い機密情報へのアクセスがある②期間が1〜2年以内③地域制限が合理的④代償措置(退職金の上乗せ等)がある
- ●【無効になりやすい条件】①全従業員に一律適用している②期間が3年以上と長い③業界全体を広く禁止している④代償措置がない
- ●実務上のポイント:競業避止義務に違反しても、必ずしも法的に問題になるわけではない。有効性が争われた裁判例では、多くの場合に競業避止義務が無効と判断されている
- ●転職エージェントへの相談:競業避止義務が気になる場合は、転職エージェントや弁護士に相談することをおすすめする
チェックポイント③:退職金制度の確認
退職金は「あると思っていたらなかった」「金額が想定より大幅に少なかった」というケースが多い項目です。転職前に確認しておきましょう。
退職金制度の種類と確認事項
退職金制度には複数の種類があり、勤続年数・退職理由(自己都合か会社都合か)によって金額が大きく変わります。
- ●退職金の種類①:確定給付型(DB)→ 勤続年数に応じた一定額が退職時に支払われる
- ●退職金の種類②:確定拠出型(DC・企業型)→ 掛け金を運用して退職時に受け取る。転職時に持ち運びが可能
- ●退職金の種類③:中小企業退職金共済(中退共)→ 中小企業に多い。転職先への通算制度あり
- ●確認すべき項目:①退職金制度の有無 ②勤続年数ごとの支給額の計算式 ③自己都合退職の場合の掛率(会社都合より少ないのが一般的)④企業型DCの場合の移管手続き
企業型DC(確定拠出年金)の転職時の注意点
企業型DCに加入している場合、転職後6ヶ月以内にiDeCo(個人型確定拠出年金)や転職先の企業型DCへの移管手続きが必要です。手続きを怠ると、運用が自動的に停止されて損をする可能性があります。移管手続きは退職後できるだけ早く行いましょう。
チェックポイント④:有給休暇の取扱い
有給休暇は「退職時に使い切れるか」「退職時に買い取ってもらえるか」が重要なポイントです。
退職時の有給休暇の取扱い
有給休暇は労働者の権利であり、退職前に消化することは法律上認められています(就業規則に「有給消化の制限」があっても、基本的には有効ではありません)。
- ●有給消化の権利:労働者は時季指定権があり、退職前の有給消化は原則として拒否できない
- ●会社が有給消化を妨げる場合:労働基準監督署に相談する権利がある
- ●有給の買取:通常、会社に有給を買い取る義務はない(一部の会社は好意で行っている)
- ●残日数の確認:退職前に必ず残有給日数を確認し、消化計画を立てる
- ●転職先の有給付与日:転職先での有給は入社後6ヶ月経過で付与されることが多い(入社直後は有給なし)
チェックポイント⑤〜⑦:その他重要な確認事項
上記以外にも、転職に際して確認しておくべき重要な就業規則の条項があります。
チェックポイント⑤:秘密保持・機密保持義務
多くの就業規則・雇用契約書には「在職中・退職後の機密情報保持義務」が含まれています。転職後に前職の顧客情報・技術情報・ノウハウを流用することは法的リスクがあります。
- ●確認すべき項目:秘密保持義務の期間(退職後何年間か)・対象となる情報の範囲
- ●転職後の注意:前職の顧客リスト・営業情報・技術情報を転職先で使用することは不正競争防止法に抵触する可能性がある
- ●前職データの個人持ち出し禁止:仕事データを個人のメールやUSBに保存して持ち出すことはリスクが高い
チェックポイント⑥:退職勧告・解雇の条件
転職先の就業規則に「試用期間中の解雇条件」「懲戒解雇・普通解雇の条件」が明記されているか確認しましょう。試用期間中の解雇は通常よりハードルが低い場合があります。
- ●試用期間中の解雇:入社後14日以内は解雇予告なし・予告手当なしでの解雇が可能
- ●入社後14日経過後:14日以上30日未満は使用者の裁量により、30日以上は通常の解雇規制が適用
- ●試用期間の延長:就業規則に延長規定がある場合、本採用判断の先送りが行われることがある
チェックポイント⑦:ハラスメント・コンプライアンス規定
転職先の就業規則にハラスメント防止規定が明文化されているかを確認することは、職場環境を事前に評価する一つの指標になります。特に「相談窓口の設置」「懲戒処分の明示」が盛り込まれている会社は、コンプライアンス意識が高いと判断できます。
入社前に転職先の就業規則を確認する方法:内定後の正当な権利
就業規則の確認は「入社してから」では遅い場面があります。内定後・承諾前に確認する実務手順を知っておきましょう。
- ✓確認依頼のタイミング:内定通知後〜承諾前が最適。「入社の意思決定にあたり、就業規則の副業・退職金に関する条項を確認させていただけますか」——この依頼は法的にも慣行的にも正当で、誠実な企業は応じる
- ✓全文開示が難しい場合:「該当条項の要約」や「オファー面談での口頭説明+議事メモ」でも実用上は足りる——重要なのは、気になる項目(副業・競業避止・退職金・転勤)への明確な回答を文字で残すこと
- ✓労働条件通知書との関係:個別の労働条件通知書・雇用契約書が就業規則より不利な場合、就業規則の基準まで引き上げられる(労働契約法12条)——両方を見る意味はここにある
- ✓開示を渋る会社の評価:就業規則は労働基準法で周知義務が定められた文書であり、「入社するまで一切見せられない」という対応は、入社後の労務運用の予告編として警戒材料にしてよい
- ✓エージェント経由の場合:確認依頼はエージェントに代行してもらえる——「聞きにくいことを代わりに聞く」のはエージェントの本業
- ✓優先順位:全条文を読む必要はない。①副業、②競業避止・秘密保持、③退職金の支給条件、④退職の申告期限、⑤転勤・出向、の5点だけは承諾前に押さえる
退職時に効いてくる就業規則の「落とし穴」条項
就業規則は入社時より退職時にこそ牙をむきます。辞める段階で慌てないために、在職中から把握しておくべき条項を整理します。
- ✓退職の申告期限:「退職は◯ヶ月前までに申し出ること」の規定は会社ごとに異なる(1〜3ヶ月が多い)。民法上は2週間前の申告で退職可能だが、円満退職を目指すなら規則の期限から逆算して動くのが実務
- ✓退職金の減額・不支給条項:「懲戒解雇の場合は不支給」「同業他社への転職の場合は減額」などの条項の有無を確認——同業転職での減額条項は争いになりやすく、存在を知っているだけで交渉と準備が変わる
- ✓年次有給休暇の時季変更権:会社は「事業の正常な運営を妨げる場合」に有給の時季変更を求められるが、退職日を超えた変更はできない——退職時の有給消化は原則、労働者の権利として通る
- ✓研修費用の返還条項:「入社◯年以内の退職は研修費用を返還」の条項は、内容によっては労基法違反で無効になるが、有効とされる場合もある(留学費用など)——該当しそうなら退職前に専門家に確認
- ✓引き継ぎ義務の規定:「引き継ぎを完了すること」の規定を理由に退職日を延ばすことはできないが、誠実な引き継ぎは退職金や関係の面で自衛になる
- ✓貸与品・社宅の返却期限:社宅住まいの場合、退職後の退去期限の規定は生活に直結——転居のスケジュールに織り込む